| タイトル | : 【SS】大逃走 第二章(逃) |
| 記事No | : 221 |
| 投稿日 | : 2009/01/13(Tue) 08:13 |
| 投稿者 | : 松 |
大逃走
第二章 ブルー・フェザー
クレモナ星系、工業まで含めた自給自足が可能である以外にこれといって特 徴のないこの星系は、連合王国と競合する関係にある銀河帝国に属している。 今、そのクレモナ星系を銀河帝国に所属する二つの艦隊が航行していた。 一つは銀河帝国軍親衛軍宇宙艦隊所属、戦術機動研究班、通称「ブルー・フェ ザー」。そして、その前方に位置するクレモナ星系の警備艦隊である。 この二つの艦隊は、クレモナ星系内で突如発生した空間異変の調査に向かっ ている所だ。 「メルフィ君、そろそろかな?」 「はい。あと五分もすれば、先行するプローブの探知範囲内に異変発生宙域が 入ります」 「ブルー・フェザー」司令官、ジークフリード・ブラウフリューゲル准将の 問いに、副官のメルフィ・グローヴァ中尉は頷いた。 「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか・・・」 いささか退屈気味である彼は、そんな風に呟いた。だが、きっかり五分後に その宙域に到達したプローブが転送してきた映像には、鬼や蛇よりも厄介な存 在が映し出されていた。 「これは・・・!?」 スクリーンに映し出された映像を見た瞬間、メルフィを始めとする戦闘指揮 所のほぼ全員が息をのんだ。唯一の例外となったジークフリードだけが、のん びりとその正体を口にした。 「連合王国側の戦艦・・・だね。新造艦みたいだけど」 新造艦と彼が言ったのは、スクリーンに映し出された宇宙船が、艦形識別表 にある連合王国軍のどの艦とも一致しなかったからだ。 一致しないのに連合王国の戦艦と判断出来たのは、その戦艦に最近の連合王 国軍戦艦に共通の外見的特徴を備えていたからに過ぎない。 戦艦という兵器は不思議なもので、敵艦船を撃沈する、という目的は同じで あるにも関わらず建造した国、時期といった特徴が色濃く出るのだ。連合王国 のこの時期の戦艦の場合、その特徴は船体の左右両舷に設置されたバルジとい う見た目そのままの突起構造の存在と上下の二面にのみ装備された兵装群が当 てはまる。(ちなみに、銀河帝国軍の戦艦は上下左右の四面に兵装を施してい る) ともあれ、そのバルジの存在と上下に装備されている兵器、そこからジーク フリードは連合王国の戦艦と判断したのだ。 だが、この判断はブルーフェザーの戦闘指揮所の要員にさらなる驚きを与え ただけであった。 「し、司令!連合王国の戦艦が、どうすればここまで来れるって言うんですか!?」 驚きのあまりに発生した沈黙の中、メルフィが叫んだ。当然である。連合王 国の勢力圏からこのクレモナ星系に到達するには、最低でも帝国側のライン・ ゲートを十個以上使わねばならないのだ。どう考えても、銀河帝国の哨戒網に 察知されずに到達出来る場所ではない。 だが、彼女の半ば悲鳴と化した疑問に対するジークフリートの回答は、いたっ て頼りないものだった。 「さあ?」 「さあ、って・・・」 「いくら考えても回答出来るものじゃないよ。それに、ここに来た方法を考え るより、目の前の相手にどう対応するか考える方が先決だろう?」 「そ、それはそうですが・・・」 あまりの出来事に思考がついていけないメルフィは、思わず何か言い返そう とする。が、何も思いつかずそこで言葉が途切れてしまう。そんな彼女に現実 への対応を行わせるべく、ジークフリードは穏やかに、だが確固たる口調で命 令を出した。 「メルフィ君、ブルー・エンジェルスの全機に偵察ポッドを搭載させて発進準 備。ブルーアースにも連絡してブルー・ナイツ、ブルー・タワーの発進準備 を進めさせるように。装備は走査プローブと対艦ミサイルを半々に」 「は、はい、分かりました!」 この命令で思考回路のスイッチを切り替えた彼女は、直ちに各艦への命令伝 達に取り掛かった。 その様子を見届けると、彼はおもむろに立ち上がり、なんとも散歩に行くか のごとき気軽さでのたまわった。 「全戦闘機発進。私も出るから、後よろしく」 このとんでもない発言に、メルフィは作業する手がピタッと止まった。ゆっ くりとぎこちなく振り返ると、有能な秘書といった理知的な顔をわずかに強張 らせながら問いかけた。 「は?今、何と・・・?」 「だから私も出るって言ったんだってば」 一応皇族の血縁にして名家ブラウフリューゲル家の現当主とは思えぬ軽い口 調で改めて言われ、彼女は一瞬後に沸騰した。 「な、何考えているんですかぁ!!ご自分の立場を少しは考えて行動して下さ い!!何度言えば・・・」 「考えたから出撃するんじゃないか」 彼女をなだめるように、ジークフリートはのんびりとした調子で応じた。 「それに、並の犯罪者程度なら人任せで十分だけど、連合王国の新鋭艦が相手 となれば、人任せには出来ないだろ?」 「そ、それはそうですが・・・」 咄嗟に反論出来ず、メルフィは口ごもった。そこへ、ジークフリードはすか さずたたみかけた。 「ついでに言うと、ブルー・エンジェルス全機出撃だからねぇ。一応、一番機 を預かる私も、出ないわけに行かないのさ」 「それが狙いですかっ!あの命令はっ!!」 「それじゃ、メルフィ、リカルド艦長、行動指示はブリーフィングルームで出 すから、後はよろしく」 指二本を揃えただけのくだけた敬礼を軽くしてみせながら、ジークフリード は足取りも軽く戦闘指揮所から出て行った。 「ああ、もう、あの人はどうしていつも・・・」 その後ろ姿を見送るしか出来ないメルフィは、くやしそうに愚痴を漏らすと、 それでも彼の命令を伝えるべく作業を再開した。 一方、メルフィの小言から(いつものように)逃げおおせたジークフリート は、ブリーフィングルームで各艦、各戦闘機隊に目的と行動計画を指示した。 その内容を箇条書にすると、次のようになる。 ・今回の作戦目的は正体不明艦の情報収集である。このため、戦果よりも生還 を優先すること。 ・ブルー・エンジェルスは偵察ポッドを装備、第一波として最初に突入し、正 体不明艦の撮影を行い、離脱する。 ・ブルー・ナイツ、ブルー・タワーの両隊は走査プローブを正体不明艦の周囲 に射出する。なお、プローブの存在を隠蔽するため、同時にプローブと同数 の対艦ミサイルを発射する。 ・各艦は、全戦闘機隊の攻撃完了をもって砲撃を開始。その際には無人標的艦 を囮として前面に押し出し、損害を抑制する。戦闘機隊の離脱をもって砲撃 終了、撤収する。 要するに、威力偵察を正体不明艦に仕掛け、その能力を探ろう、というわけ であった。 「何か質問は?」 説明を終えたジークフリードは、一同をぐるりと見回しながらそう訊いた。 一同は首を振って問題ないことを伝える。ブルーフェザーが現体制になってか ら数年、この程度の意志疎通が難なく出来る程度には、互いを理解している部 隊なのだ。 「よし、それでは解散。準備にかかれ。一〇分で出撃する」
同時刻、ブルーフェザーが言うところの正体不明艦こと連合王国軍試験艦ド レッドノートの艦内では、同艦の技術主任、島風青葉はもうろうとした意識で 自分の体が揺れている事を認識した。 「主任、島風主任」 良く通る、聞き取りやすいアルトの声と、肩にかけられた手による揺さぶり により、青葉の意識は覚醒した。 「う、ん・・・」 小さく声を漏らしてから顔を上げる。寝起き特有のぼやけた視界に、銀色の 誰かが入っていた。 「主任、お気づきになりましたか?」 この言葉でようやく意識と視界がはっきりとなり、目の前で自分をのぞき込 んでいるのが誰か、ようやく認識出来た青葉は、その名前を呼んだ。 「・・・ルビィ」 「はい」 「一体何が・・・そもそも、今は何時?それにこの艦の位置は?」 混乱から立ち直ろうする人特有の矢継ぎ早の質問が彼女の口からついて出た。 これを受けたのが人間であれば、質問を裁きかねて悲鳴を上げるところだが、 艦制御用人工頭脳であるルビィにとっては対処可能な問題でしかない。一瞬だ け沈黙を置いてから、一つづつ答えた。 「恒星炉暴走による不完全跳躍を強行した結果、本艦は強烈な振動を起こしま した。現在時刻は一一時二五分。跳躍試験開始から二五分が経過しています。 本艦の現在位置は不明。天測にて計算中です」 「そう・・・ありがとう」 青葉がそう礼を言うと、艦長席のカーンが振り返った。 「気づいたかね」 「あ、はい!」 勢いよく立ち上がった青葉を見て、カーンは軽く頷いた。 「それはよかった」 そう応じる彼に、青葉は急いで近寄ると、艦長席の背もたれに上体を預ける ようにして顔を寄せた。 「それよりも艦長、この艦の状態は?」 「よくはないな」 それからカーンが告げたドレッドノートの状況は、彼の評価が正しいことを 裏付けるものであった。暴走した恒星炉の近くにいた機関員達は半数以上が死 傷していた。さらに恒星炉自体も過重なエネルギー放出を行なったために損傷 を受けていた。安全のために多重化してあるエネルギー供給ラインも損傷を受 け、一系統を残して壊滅状態というありさまであった。さらにひどい損傷が発 生したのは格納庫で、振動により戦闘機と艦載艦が脱落。このため戦闘機四機 が全損し、パイロット二名が死亡。艦載艦も八隻中三隻全損、三隻損傷。乗組 員も二名を除いて死傷という有様であった。 それらを聞いた青葉は、あまりの深刻さに言葉を失った。 「そんなに・・・」 「せめてもの救いは、残った一系統のおかげで物理的に壊れた箇所以外はきち んと機能する、というところだな」 「航行もですか?」 「ああ、全力発揮も出来る。もっとも、今度壊れたら、修理しない限り動けな くなるがね」 カーンはそう言って肩をすくめて見せた。そこへ、マリオが珍しくしかめっ 面して話に割り込んだ。 「艦長、その無事が吹き飛ぶ事態になりそうですよ」 「どうした?」 「先ほどからこっちの周りをうろついている帝国軍のプローブが、電波妨害 (ジャミング)を始めました」 「帝国軍の」とわざわざ言ったのは、目が覚めたばかりの青葉に対するサー ビスである。 「帝国軍の・・・電波妨害?」 「ふむ、やはり放っておいてはくれないか。修理作業中止、戦闘配置。マリオ、 全兵器起動を急げ」 「了解」 マリオが敬礼して自分の席に戻ると、ルビィの声がカーンの命令を伝えた。 『総員戦闘配置、総員戦闘配置。修理作業中の要員は作業を速やかに中断せよ。 繰り返す、修理作業を中断せよ』 この命令を受けた乗組員達は、艦内の各所で従事していた修理作業を各種ド ロイド達に委ね、それぞれの持ち場に走る。が、それぞれの持ち場についても 隣にいるべき同僚がいない場合が多く、ドレッドノートが受けた被害の深刻さ を間接的に示していた。 一方、その貴重な例外である戦闘指揮所(ここは死傷者が出ていない。ただ し、他部署に補充人員を派遣したため、空席があるのは他と同じ)では、別の 問題が発生していた。 「やはり時間がかかるか」 カーンがそう呟いた。 彼の言う「時間がかかる」事とは、攻撃に不可欠な火器管制装置と各兵器の 起動である。 跳躍試験前、ドレッドノートの全兵器は事故に備え、エネルギーを全てカッ トした状態になっていた。おかげで、全ての兵器は恒星炉の暴走にも巻き込ま れることなく、無傷であった。だがその結果、当然ながらすぐには使えない状 態になっていた。兵器、特にレーザーや荷電粒子砲というものは、スイッチを 入れればすぐに動く家電製品と違い、使用出来るようになるまで多少の時間が かかるのだ。 無論、跳躍直後にこれらの兵器類にエネルギーを供給していれば、この時点 で使う事は可能であった。だが、カーンはドレッドノートの損害把握が不十分 なままエネルギー供給を行うことで、二次災害が発生する可能性を回避する道 を選んだのだ。ドレッドノートは人類に一隻しか存在しない跳躍能力保有艦、 という事実が、彼により慎重な選択をさせたのだ。結果は、凶と出てしまった が。 だが、それを悔いても始まらない。カーンは一瞬だけ瞑目すると、すぐに判 断を下すべく、情報の確認を始めた。 「敵の攻撃は戦闘機と攻撃機による襲撃だったな?」 「はい、戦爆連合合計一〇〇前後。二波に分かれています」 その報告を受けると、カーンは一つ頷いてあっさりと決断した。 「では、対空用パルスレーザーを最優先で起動しろ。次が荷電粒子砲、レーザー 砲は最後にしろ」 「了解」 ともかくも、接近が確認された脅威への対抗手段の準備を最優先にする。現 状では非常に妥当な判断であった。そんな命令を、マリオは敬礼と共に受けた。
一方、ジークフリード率いるブルー・フェザーの攻撃隊も、正体不明艦(ド レッドノートという艦名を彼らはまだ知らない)が行うであろう迎撃への対抗 手段の準備を進めていた。 「ブルー・エンジェルス各機、そろそろ突入だ。ダミーと閃光弾の準備。突入 前カウント二〇で閃光弾射出。カウント一〇でダミーを射出する。フライパ スは一回だけ。欲張って撃墜されないこと」 「了解!」 ジークフリードの乗る戦闘機ベルリーナの「生身で宇宙を飛んでいる」よう な錯覚を与える全天周モニター式のコックピットに、彼以外は女性で構成され るブルー・エンジェルスの全メンバーの声が響く。そこへ、「ブルー・フェザー」 旗艦である航空戦艦ブルーフェザーから通信が入った。 『全攻撃隊へ、突入前カウント一二〇。全機のカウンタを作動させます』 その声と同時に、彼の視界の右隅に一二〇という数字が表示され、一秒ごと に減り始めた。
その数字が六〇まで減った時、ドレッドノートでは対空用パルスレーザーの 準備が終わり、後は射程内に入るのを待つばかりとなっていた。 『敵攻撃隊、さらに接近。射程まで、あと六〇秒』 「迎撃の優先順位はミサイル、敵機の順に設定します。とにかく、被弾だけは 避けます」 「任せる」 ルビィの報告を受け、マリオはそうカーンに宣言した。その宣言を艦長席の カーンは、そう言って認めた。ただでさえ跳躍実験時の損害が深刻なのだ。こ の上のさらなる被弾、損傷という事態は絶対に避ける必要があったのだ。 このやりとりの間にも時間は進み、ルビィが再び報告してきた。 『攻撃隊、射程まであと三〇秒』 この時、接近してくる敵機に異変が起こった。それをルビィは的確にまとめ て報告する。 『敵機に閃光の発生を確認。ミサイル等の発射炎と判断します』 「ルビィ、ミサイルらしきものに照準」 『了解』 「それと予備の照準センサーの入光量を最低に調整。目くらましの閃光弾に備 えろ」 『了解』 ルビィとマリオがこれらのやりとりをしている間、カーンは何も口だししな かった。ミサイルの迎撃は砲術長の領分であり、よほどの事がない限り艦長が 指示を出すべき事ではないからだ。だからといって他にやるべき事が何もない わけではない。彼はその他にやるべき事の指示を出しにかかった。 「晶、敵信の解析はどうだ?」 「通信の暗号化ルーチンが新式らしくて、難航しています。本格的な解析機に かけないと無理かもしれません」 「そうか。なら、映像から敵機の機種の特定を急げ。相手が何者か知りたい」 「了解。敵機接近まで待ってください」 軽く頷いた晶は、敵の通信傍受と解析を自動処理に切り替え、映像の解析に とりかかった。 銀河帝国軍は、部隊ごとに異なる装備を持つ傾向があるため、機種を特定す るだけでも大まかな所属部隊が分かる。カーンはこの傾向を逆手に取り、攻撃 してきた部隊の配備情報を得ることで現在位置を特定しようとしていたのだ。 さらに、彼は艦の防御に必要な措置を講ずるべく、青葉に向き直った。 「青葉君、跳躍機関のエネルギー吸収機能は使えるか?」 「あまりお勧めしません。跳躍機関暴走の損害が復旧していない現状で、それ を使用した場合、再度の暴走を招きかねません」 「そうか」 「私としては、せめてエネルギー系がもう一系統、回復するまで使用を待つよ う進言します」 「分かった。そちらは温存しよう」 使えれば儲け物、最初からその程度に思っていたカーンは、否定的な青葉の 進言をあっさりと受け入れた。 その直後、ルビィが新たな事態の発生を報告した。 『敵ミサイルらしきもの自爆。自爆宙点(ポイント)に強い持続光源の発生を 確認。閃光弾と判断します。敵機失探』 報告と同時に、各スクリーンの彼我の位置を表示する状況表示ウィンドウに 変化が生じた。それを戦闘指揮所中央に投影されている立体映像で説明すると 次の通りになる。 まず、ドレッドノートに近付きつつあった敵機を示す輝点が一斉に止まった。 続いて輝点を頂点とした円錐が、底面の円を進路方向に向け、円を拡大しなが らドレッドノートの方に延びてくる。これは閃光により確認出来なくなった敵 機の予想位置範囲である。 そして、この円錐はすぐに進路上に展開したブロック―閃光弾による影響範 囲を示す―に突入した。 この間にルビィはマリオの命令に従って照準センサーを予備のものに切り替 え、直ちに敵機の位置を再捕捉しにかかった。だが、その結果は閃光弾炸裂前 と全く異なっていた。 『敵機の再捕捉完了。総数増加、約一〇倍の機数を捕捉。射程内に入りました』 ルビィの報告に、マリオは髪をかき回した。 「やれやれ、ダミーを撒かれたか。ルビィ、片端から撃て。ほとんどがダミー だから、当てた時の反応で判断するんだ」 『了解、対空パルスレーザー、射撃開始します』 ドレッドノートは、建造されてから初めて、敵に対する攻撃を開始した。
ドレッドノートからの対空パルスレーザーが発射された時、ブルーエンジェ ルの各機は、自らの射出したダミーの後ろにつき、閃光弾によって発生して光 の隠れみのから飛び出したところだった。 光から解放されたジークフリードらが最初に見た物は、自分達の前方に展開 するダミーの大群と、正体不明艦(ドレッドノート)の姿であった。 「へぇ・・・」 あらかじめプローブの情報から外見は知っていた彼だったが、それでもそん な声が漏れた。それほど、その大きさと特異な外見は印象的であった。 (こりゃ、ウチのブルーフェザーより大きいんじゃないか?) ダミーが投影する目視対策の立体映像が邪魔であったが、それでも大まかな 全長なら判断出来る。そこから、彼はそう判断した。ちなみに航空戦艦ブルー フェザーは、元は銀河帝国軍の次世代主力戦艦として試験的に建造した戦艦で あり、現行の主力戦艦であるアクティウム級よりも一回り大きい艦である。 そんな事を思っている間にも、レーザーがダミーを穴だらけにして破壊する。 そして、ブルー・エンジェルス隊の各機は乱数回避(不規則な回避運動)を行 ってレーザーによる弾幕をかいくぐりつつ接近を続ける。無論、全てを回避出 来るわけもない。少なくない数のレーザーがベルリーナに命中しては、対レー ザー用の鏡面化コーティングが自らの蒸発と引き替えに機体を守る。 (そろそろだな) ダミーを正確に判別出来るようになったからか、レーザーの命中数が増えて きている。その状況下で、彼は全天周モニターのカウンタの値を確認すると、 そう思った。 彼らの後に続く第二波、ブルー・ナイツ、ブルー・タワーの両隊による対艦 ミサイルと走査プローブ発射の時間が、迫りつつあったのだ。
第二波による対艦ミサイルおよび走査プローブ発射の瞬間は、ドレッドノー トの方では確認出来なかった。 理由は、第一波が使った閃光弾の影響である。閃光弾に対応するため、セン サーの入光量を最低に調節した結果、発射時の閃光を捕らえ損ねたのだ。 もっとも、それはミサイル自体を捕らえ損ねた、というわけではなかった。 ミサイルが閃光弾の光を抜けた時点で、ドレッドノートのセンサーはミサイル の存在を捕捉。これに対し、ルビィはあらかじめマリオに命令された通りに迎 撃対象を接近しつつある第一波の各機からミサイルに変更した。 『敵第二波よりミサイルの発射を確認。敵機への迎撃を中断し、ミサイルの迎 撃を開始します』 この認識や判断をこのような形で伝えられたマリオは、さすがに焦りを覚え てカーンの方を振り返った。 「艦長!」 「慌てるな。ルビィ、ミサイルを捕捉できない対空パルスレーザーを第一波の 迎撃に向けろ。射界内に入ったらでいい」 『了解』 ルビィが応じると同時に、ドレッドノート自身の状況を表示しているウィン ドウに、いくつかの対空パルスレーザーが命令通りに目標を変えた事が示され た。 それを確認したカーンは、誰にともなく自分の見解を示した。 「どうやら、相手の目的は強行偵察らしいな」 「何故、断言されるのです?これだけの対艦ミサイルも撃ってきているのに」 この問いを投げかけてきたのは、当然と言うべきか、青葉であった。だが、 カーンはそれに動じる事なく、彼女への説明を始めた。 「第一波が攻撃してこないのが、その根拠だ。こちらを沈めるつもりなら、第 二波のミサイル発射に合わせて第一波もミサイルなり閃光弾なりを撃つはず だ。そうすれば、こちらの迎撃能力を超える攻撃になって、打撃を与えられ るからな」 「なるほど」 あくまで技術者であり、ここまでの判断を下せるほどの軍事知識と実戦経験 を持たない青葉は素直に頷いた。そこへ、カーンは落ち着いた態度で付け加え た。 「である以上、この次に退避までの時間稼ぎに何か・・・まぁ、多分艦隊を繰 り出してくるだろうな」 この予想は、ジークフリートの立てた計画と完全に一致していた。別にカー ンが超人的なカンを持っているわけではない。無論、ジークフリートが単純と いうわけでもない。この手の展開というものは、いかなる名将といえど創意工 夫を凝らす余地がないほどルーチン化されており、どれであるか見分けがつけ ば、その後の展開は簡単に予測出来るというだけの事である。 そんな事を言っている間にも、第一波とミサイルは接近を続けている。無論、 迎撃も続けられており、ミサイルは次々と撃ち落とされていく。だが、第一波 に関しては、ダミーがかばうように展開しだしたため、有効打を出せずにいた。 このままでは、敵機による偵察を許してしまう事になる。その予測を受けて も、カーンは肩をすくめて軽く命じた。 「まぁ、ここまで近づかれたら、偵察阻止は無理だろうな。とにかく、少しで も邪魔をする事に専念しろ」 「いいんですか?」 「どのみち、ある程度の情報は以前から来たプローブで取られているだろうし、 敵機撃墜を優先してミサイルを食らうわけにもいかないしな」 青葉の問いにカーンがそう応じた時、第一波が散開した。各部の撮影のため に散ったのだ。そこまで近づいて来たという事は、ドレッドノート側も機種を 判別出来るという事でもある。散開からさして間を置かず、晶は機種を判別し た。たがそれは、意外な、それもカーンが想像だにしなかった事態を引き起こ す事になった。 「こ、これは・・・」 第一波の機種がベルリーナであると知った時、晶は愕然となった。何故なら、 ベルリーナを装備する銀河帝国軍の部隊は、ブルー・フェザー配下のブルー・ エンジェルス以外に存在しないことを彼女は知っていたからだ。だから、愕然 から解放されると、思わず叫んでいた。 「うそっ!ブルー・エンジェルス!?どうして!?ならここは、クレモナ星系!?」 立ち上がりながら、そんな意味が通らない叫びを上げた彼女に、戦闘指揮所 にいた全員の視線が集中した。当然だろう。驚くだけならまだしも、いきなり 星系名まで口走れば、不審なことこの上ない。 「あ・・・」 集中する視線の意味を、痛いほど理解してしまった晶は、しまったと思いな がらもそのまま硬直した。沈着冷静なカーンですら、こちらを見たままあっけ に取られていた。それでも、彼は艦長としての責務を放り出さず、彼女に問い ただした。 「あー、晶。ブルー・エンジェルス、と言ったのか?」 「あ、はい、そうです」 変に探りを入れる質問でなくて良かったと思いながら、彼女は短く頷いた。 その間にも、ブルー・エンジェルスの一機がメインスクリーンが映し出すエリ アに侵入し、そのまま艦首方向へと駆け抜けていった。 「どうして分かった?」 「ええ、この映像をご覧下さい。敵の第一波はこの戦闘機、ベルリーナで構成 されています。帝国軍でベルリーナを装備している部隊は親衛軍の戦術機動 研究班『ブルー・フェザー』配下のブルー・エンジェルス以外に存在しませ ん。白銀と青のツートンカラーも、これを裏付けています」 「なるほど。ブルー・フェザーは白銀と青がアイデンティティーカラーだった な」 「はい」 いつもの、落ち着いた態度に戻った晶は、カーンの言葉に頷いた。どうやら、 先の叫びは不問になりそうだ、と安堵したのだが、そうはいかなかった。 「・・・で、どうしてブルー・フェザーが居る星系を知っているんだ?」 「う・・・」 まったくもってもっともな問いに、晶はおっとりとした雰囲気を醸し出す顔 を引きつらせた。 (うう、言わないわけにはいかないかなぁ・・・) 内心で葛藤していると、それを察したのか操艦を担当する飛美が暢気な口調 で差し迫った別の事態を告げた。 「艦長、さっき言った艦隊らしいものがこっちのセンサーにかかりました。そ の娘の事よりこっちへの対処をしてくれないかい?」 「そうだな。では、接近中の敵艦隊への砲戦を行う。取舵、針路変更二八五」 飛美に頷くと、カーンは直ちに命令を出した。続けて、晶を振り返る。 「晶、話は後にする。ブルー・フェザーの母艦群のはずだ。敵艦隊の識別を急 げ」 「り、了解!」 葛藤していた晶は、事態の急変に追いつけず、珍しくも慌てて作業に戻った。 ひとまず、自分への追及が先送りになった事にわずかな安堵を感じながら。
カーンの予想は半分当たり半分はずれた。接近してくる艦隊は航空戦艦ブルー フェザーを旗艦にした、ブルー・フェザー、クレモナ星系警部艦隊の混成艦隊 であったのだ。ジークフリードの立てた計画通り、攻撃隊が安全圏に離脱する までの間、砲撃でドレッドノートを牽制するために、急速に距離を詰めつつあっ た。 この艦隊の指揮を委ねられたブルー・フェザー副司令レティシア・ローズ大 佐は、自艦とクレモナ星系警備艦隊旗艦、それに囮の無人標的艦の主砲射程内 にドレッドノートを捉えると同時に、砲撃を命じた。 「撃て!」 命令と同時にブルーフェザーの三六センチ荷電粒子砲、警備艦隊旗艦と無人 標的艦の三〇センチ荷電粒子砲が一斉に発砲した。合計で四〇本の荷電粒子の 光条が、ドレッドノートに向けて伸び・・・その全てが外れた。遠距離での発 砲で初弾が命中することなど滅多にない、という砲戦の常識を証明する結果と 言えるだろう。だが、レティシアにとっては別に問題ではなかった。あくまで 牽制が目的である以上、有力な艦隊が砲撃してきている、という事実を示すこ とこそが大事なのだ。 だから、彼女はさらなる接近を命じた。特に無人標的艦に対しては突撃と言っ てもいいほどの速度でドレッドノートに接近させた。
ミサイルを全て撃ち落とし、さらに針路を変え砲撃準備を整えたドレッドノー トの戦闘指揮所に、この事実がルビィによって報告された。 『敵艦隊より一隻分離。本艦に向け急速に接近中』 「どれだ?」 『艦隊の先頭にいた艦です。発砲しています』 「晶、これが何だか分かるか?」 ルビィの答えを聞き、カーンは判別作業中の晶に問いかけた。これに対し、 彼女は既に答えを出していた。 「旧式のヴィクトル・ユゴー級の装甲巡洋艦を無人標的艦に改造したものと思 われます」 「そうか・・・なら、これは無人の囮だな」 その答えを聞いたカーンは即座にそう判断した。無人の囮なら、遠慮無く使 い捨てに出来る。それが旧式ならなおのことだ。 「ですが、このまま距離を詰められると面倒です。この囮艦を目標にします」 マリオの言うとおり、例え使い捨ての囮と分かっていても、無視は出来ない。 距離を詰めて撃たれれば、防御力が高くなるよう設計されたドレッドノートと 言えど、損傷を被る可能性が出てくるからだ。だが・・・ 「待て」 カーンはあえてマリオを止めた。意外な制止に驚いて振り向いたマリオに、 カーンは別の問いを投げかけた。 「レーザー砲はあと何分で使用出来る?」 『あと五分でハード、システム、どちらも使用可能になります』 「よし。マリオ、囮艦への砲撃は五分だけ。その後は目標を変更。囮艦にはレー ザー砲を使え」 ルビィの報告を聞いて不敵な笑みを浮かべると、カーンは改めてそう命じた。 「了解。ですがいいのですか?レーザー砲では、効果が出るまで時間がかかり ますが」 荷電粒子砲の砲撃と違い、レーザーは目標に対し照射する形で使われる(平 たく言えば、懐中電灯などで相手を照らすようなもの)。このため命中は得や すいが、相手を破壊するまでには数秒の時間がかかる、という性質を持ってい る。マリオは、その間に撃たれる事を懸念したのだ。 「無人標的艦なら、問題はない。遠隔制御用のアンテナを溶かせば、事故防止 のために勝手に止まってくれる。アンテナなら、簡単に溶かせるはずだ」 「・・・分かりました」 カーンの思い切りのよい決断に、数瞬の絶句を置いてからマリオは頷いた。
「目標の砲撃、無人標的艦に集中!」 「よぉーし、このままの状態を維持するのよ。もう少しで司令達が離脱するか らね」 オペレータの報告に、レティシアは機嫌良く応じた。その一方で、目標(つ まりドレッドノート)の砲撃を観察するのも忘れない。 「それにしても、あっちの砲撃は妙に弱いわね」 「確認出来ている砲撃は三〇センチ級の荷電粒子砲、合計で一六門程度です。 確かに、あの巨体に比べると弱い火力です。しかし、発射速度は速く、照準 も正確です」 気になった点を彼女が呟くと、ブルーフェザー艦長、リカルド・ランカスター 大佐が同意と指摘を行う。その言葉に、彼女は眉をひそめた。 「ふむ・・・」 「何か?」 「いや、何か引っかかるのよねぇ。標的艦を少し下げようかしら」 この発言がなされたのは、ドレッドノートの砲撃開始からちょうど五分が経 過した時だった。
『レーザー砲、発射準備完了』 「よし、目標、接近中の無人標的艦。全体にまんべんなく照射しろ」 『了解』 マリオの命令にルビィが応じると、ドレッドノートの船体前半部分に装備さ れた四〇センチレーザー砲から、荷電粒子砲とは異なる色の四本の光条が発生 した。その光はまっすぐに無人標的艦に伸び、そして直撃した。レーザーの持 つエネルギーは、対レーザー用コーティングや熱防止用光反射機能を持つ船体 外殻に阻まれ、半分ほどはあえなく散らされる。だが、残る半分は船体外殻に 吸収され加熱していく。無論、熱管理システムが船体外殻の冷却を開始するが、 途切れる事なく浴びせられるレーザーがその努力を無に帰していく。やがて、 その熱が外殻よりも繊細な構造を持つセンサー類や、遠隔操作に必要な通信用 アンテナを溶解させ、破壊した。 それが即座に判明したのは、当然ながらこの無人標的艦を遠隔操作するブルー・ フェザー側である。 「副司令!無人標的艦のとデータリンク切断!回復出来ません!おそらく、標 的艦側の機器が破壊されたものと思われます!!」 操作を担当していたオペレーターの叫びにも似た報告を受け、レティシアは 自分達がしてやられた事を認識した。 「やられたぁ、まさかレーザー砲を積んでいたとはね・・・」 自分の「引っかかり」の正体を察して、彼女は額をぴしゃりと叩いた。そん な動作とは別に、頭の中では状況解析と今後の行動について様々な思考を巡ら せる。 「目標の砲撃、クレモナ星系警備艦の四番艦に集中!」 「副司令、司令達の攻撃隊は、既に離脱を完了しました。全機無事との報告が 空母ブルー・エアから入っています」 この二つの報告が、彼女に決断させた。 「潮時ね・・・警備艦の四番艦に離脱を許可して。各艦にも戦闘終了と撤収を 命令。無人標的艦は放棄。本艦は殿を務める」
レティシアの決断とそれを受けての行動は、ドレッドノートでも確認出来た。 『敵艦隊、後退しつつあり。砲撃目標のターゲット七を先に下げています。な お、無人標的艦は停止したまま』 「砲撃目標をターゲット六に変更。こちらの射程外に出るまでに、出来るだけ 多くの艦に損害を与えるんだ」 ルビィの報告を受け、マリオをそう命じた。別に好戦的なのではない。ここ で少しでも多くの艦を手負いにすることで、相手の戦力回復にかかる時間を増 やそうという意図に基づいた判断である。
互いの距離が開ききり、撃ち合いが終わるのはその五分後である。さらにそ の五分後、この後退が敵の擬態ではないと判明して、ようやく戦闘態勢が解除 された。 なお、この戦闘におけるドレッドノートの戦果は以下の通り。
損傷:なし 戦果:巡洋艦級、二隻損傷。無人標的艦、一隻鹵獲。
これが、ドレッドノートの初戦闘における総決算であった。
第二章 完
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