「・・・で、なんであんたはそんな格好してるわけ?」  バリアジャケット姿でネコミミ、ネコシッポを付けた相方を見た者としては、 ある意味非常にまっとうな反応をティアナ・ランスターは返した。これに対す る相方―スバル・ナカジマの答えは明快であった。 「ある人からもらったの」 「あんたね・・・」  明快だが問題が盛り沢山の答えに、ティアナは思わず呻いた。続けて、鈍く 痛み始めたこめかみに人差し指を押しあてる。ついでに、胸中に沸き起こる様々 な感情を落ち着かせるために大きく息をつく。こうでもしないと、スバルのペー スに巻き込まれてしまうからだ。 「あんた、子供の頃、知らない人からものをもらっちゃいけません、って教わ  らなかった?」  努めて冷静な口調で問いただすと、スバルは不満げに頬をふくらませた。 「ティアぁ、それはないよ。身元は確かだって。ただ、名前は伏せておいて、  って頼まれただけ」 「ふーん」  まぁ、ここは機動六課の隊舎内である。そうそう不審人物が入り込めるわけ もないのだ。 (ま、誰かが冗談のつもりで買ったパーティグッズでしょうね)  ティアナがそんな風に思っていると、スバルがどこからともなくもう一組の ネコミミカチューシャとネコ尻尾を取り出して、ティアナに迫った。 「ねー、ティアもつけようよー。絶対に似合うし可愛いって」 「い、嫌よ。何で私がそんなの・・・」  すかさず拒絶するが、それで引くようなスバルではない。一度こうと決めた ら、意地でも押し通すのが彼女だ。 「ねー、付けようよー。なんなら、これを渡した人の事教えてあげるからさー」 「うっ・・・や、やっぱり嫌よ」 (あ、ちょっと間があった)  ティアナの反応の微妙な変化を、スバルは見逃さなかった。この辺、スバル は決して鈍くはない。もっとも、それを口には出さない。そんな事をしたら、 ティアナの反発を招くだけだからだ。だから、彼女はひたすら押して押して押 しまくった。 「ねーつけようよー、ねー」  そう言いながらに迫るスバルに、ティアナはとうとう折れた。 「あーもうわかったわよ!つければいいんでしょ、つければ!」  自棄気味に叫ぶと、スバルの手からネコミミカチューシャをふんだくって頭 につけた。 「ほら、尻尾も」 「うんっ」  嬉々とした笑顔のスバルから尻尾を受け取ると、ティアナは素早くそれを身 につけた。  こうして出来上がったネコミミティアナを見て、スバルは歓声を上げた。 「うっわ〜、ティア、かわいい〜」 「こ、こら!抱きつかない!それより、これを渡した人の事をさっさと言いな  さい!!」 「あ、うん、それは・・・」 「おー、2人とも、楽しそうやね〜」  まるで図っていたかのようなタイミングでかけられた声に、ティアナはぎょっ となった。慌てて振り返ると、そこには声の主、機動六課部隊長である八神は やてがいた。 「や、八神部隊長!?あ、あのこれは・・・」 「あ、八神部隊長、どうですか?ティア、可愛いでしょう?」  慌てるティアナを余所に、「バリアジャケット姿のネコミミティアナ」をお 披露目するかのようにスバルが彼女の肩に手を置いてはやての方に向けた。 「ちょっ、スバル!?」 「おお、なかなかええ感じやね。わたしとしてもプレゼントした甲斐があるなー」 「え?」  慌て続けるティアナだったが、頷くはやての一言を聞き咎められるくらいに は、まだ冷静であった。だから、思わず質してしまった。 「あ、あの八神部隊長、『わたしとしてもプレゼントした』って・・・」 「ん?ああ。それな、わたしがスバルにプレゼントしたんよ」 「な、何でまた?」 「んー、どこから話そうかなー」  はやては人差し指を下唇に当て、思案にくれた。だが、すぐに考えをまとめ ると、オフであることを考慮してか少しくだけた雰囲気で話し始めた。 「わたしの趣味から話そか。わたしな、服のコーディネートとか、デザインと  かが趣味なんよ」 「は、はぁ」  どうにもネコミミとの接点が見いだせず、ティアナは困惑混じりに相づちを うった。 「それがちょい高じてなぁ、コスプレにもハマってしもうたんよ。そのネコミ  ミも、そっち用のアイテムなんよ」 「はぁ」  どんな反応を示せばいいのか判断がつかないティアナは、相変わらず曖昧な 相づちを返す。 「で、それをスバルに話したら、えらく興味を見せてなぁ。そんなら、と手軽  なこれを渡したんよ」 「それで、つけてみたら面白かったから、ティアにもつけてみたってワケ」 はやての後を受けて、スバルがそう締め括った。 「あーそー」  楽しそうなスバルに、ティアナは疲労のにじむ声で投げやりに応じた。いや、 実際に精神的疲労を彼女は感じていた。同時に、どうしてわたしを巻き込まな いと気がすまないのよ、という今更な思いをスバルに抱いた。  そんなティアナを余所にはやてとスバルの話は続いていた。 「しかし、ティアナもええ素材やな。背もあるし、身体も引き締まっているか  ら、見栄えも良さそうや」 「ですよね。ティアはどんな服でも着こなせると思うんですよ」 「うん、これは創作意欲が湧いて来るなぁ。時間が出来たら、2人にあう服を  作ったろ」 「お願いします!」  階級差も何も忘れて盛り上がる2人を余所に、ティアナはネコミミ、バリア ジャケット姿のまま腕を組んで考え込んでいた。 (あたし、ひょっとして選択を間違えたかしら?)  そんな不安と魔力に反応して、ネコミミとネコ尻尾がピクピク動き続けてい た。