松です。ギャラクシーエンジェルUで思いついたネタです。
 ただし、漫画で公表されたシナリオだと、まずあり得ない話ですが・・・;

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 久しぶりに会ったある夫婦の光景

「ったく、ゲートキーパーが俺達に何の用だっていうんだよ?」
 面倒くさい、という感情を両手を後頭部に回して組むという態度で示しなが
ら、アニスはぼやいた。
「うーん、多分、私達を呼んだのは、口実だと思いますよ。本当に会いたいの
 は・・・」
 ゲートキーパー、ミルフィーユ・桜葉の妹であるアプリコットはそこで口を
閉ざすと、前を行くタクト・マイヤーズの青いマントに包まれた背中に、意味
ありげな視線を向けた。
「ん?タクトの奴がどうしたんだ?」
「お姉ちゃんが会いたいのはタクトさん、だと思うんです。私達を呼べば、タ
 クトさんは(サボるために)付いてきますから」
「何でだよ?何で、ゲートキーパーが俺達をダシにしてまでタクトに会いたが
 るんだよ?」
 わけ分かんねぇよ、と言わんばかりにアプリコットに視線を向けた。アニス
のその仕草で、彼女は自分の説明不足に気づいたらしい。あ、と小さく声を漏
らすと、ポンと両手を合わせて説明を付け加えた。
「アニスさんには、言ったことがなかったですね。お姉ちゃんとタクトさん、
 結婚してるんですよ」
「へ?」
 わりと思いがけない事を告げられ、アニスは目を丸くした。そして、視線を
アプリコットから前を行くタクトに転じる。5秒ほど彼の後ろ姿を見つめると、
どこかぼんやりと呟いた。
「・・・ゲートキーパーが、タクトの奴と?」
「はい」
 はっきりとアプリコットに頷かれたアニスは、何となくちょっとは自慢の赤
い髪をかきまわしつつ、誰にともなく呟いた。
「案外、世の中って物好きが多いんだな」
 タクトに引っかけられる形でルーンエンジェル隊に入る羽目になり、さらに
常日頃のちゃらんぽらんさを見ているアニスとしては当然の評論であった。だ
が、アプリコットはこれを聞き捨てにはしなかった。
「それはどういう意味ですか、アニスさん?」
 いつもと同じ可愛らしい口調で、いつもと同じ愛らしい笑顔であった。だが、
妙に剣呑な雰囲気が漂っていた。あえて言うなら「間接的にでもお姉ちゃんを
けなすつもりなら、容赦しませんよ」という文字がおどろおどろしくアプリコ
ットの周囲を漂っている、というところだろう。
 この剣呑さを元トレジャーハンターとしての直感で感じとったアニスは、慌
てて彼女から距離を取りつつ言い訳した。
「い、いや、そんな深い意味はないって。ただ、タクトの奴の態度から、結婚
 しているなんて想像出来なくってさ」
「・・・それなら、いいです」
 しばし笑顔でアニスを見つめていたアプリコットは、それで納得する事にし
たらしい。そう応じると、剣呑さを引っ込めた。
 その様子に安堵したアニスは、まだ恐怖でドキドキする胸を押さえつつ、ポ
ツリと呟いた。
「こ、怖かった。マジで・・・」
「迂闊ですわね〜、アニスさん」
 アニスの呟きが耳に入ったカルーアが、こちらも笑顔で突っ込んだ。
 そんな掛け合いをしている間に、一行はゲートキーパーであるミルフィーユ
と対面した。
(へえ・・・)
 これが初対面となるアニスは、ミルフィーユを見るなり内心で軽い感嘆の声
を漏らした。
 「時空の女神」などと呼ばれる相手だ。どんな浮き世離れした神々しい美人
かと思っていたのだが、実物は人懐こい感じの可愛らしい女性だった事に、軽
い驚きを覚えたからだ。もっとも、そう感じるのはミルフィーユの表情にも原
因がある。この時彼女は、親しい人々(1名は愛しい人、だが)と久しぶりに
会えた喜びと、ある理由からの安堵で、満面の笑みを浮かべていたのだから。
もし、年相応に落ち着いた表情を見せていたら、かなり違った印象を与えたで
あろう。何しろ、今の彼女は髪の色に合わせた桜色のロングドレスを着、愛用
の緑のカチューシャにあしらわれた複数の小振りな花は冠を連想させるという、
ちょっとは神秘的な雰囲気をかもし出す姿だったのだから。
 だが、どのような格好をしていようと、ミルフィーユ・桜葉はミルフィーユ・
桜葉であった。飼い主と久しぶりに会った仔犬のような勢いで彼らに駆け寄っ
たかと思うと・・・
「やあ、ミルフィー。久しぶ・・・」
「リコ!」
 歓喜の笑みを浮かべる夫のタクトの側を駆け抜け、妹のアプリコットをきつ
いくらいに抱きしめた。
「お、お姉ちゃん!?」
「もう、心配したんだから。砲撃のすぐそばを駆け抜けるなんて無茶して」
 彼女はそう言って、驚く妹の行動をたしなめた。
 これでアプリコットも姉の行動が理解出来た。つまり、ミルフィーユの目の
前で行った戦闘で、アプリコットが死ぬかもしれないと心配したのだ、と。同
時に、心配されるほど大切に思われている事を再確認出来て嬉しく思う一方、
大好きな姉を心配させてしまった事を悔やんだ。
「ごめんね、お姉ちゃん」
「うん。あんまり無茶しちゃ駄目だよ」
 何とも仲睦まじい光景である。だが、その側では忘れ去られているタクトが
ミルフィーユに側を駆け抜けられた時の表情で固まっていた。
「あのー、マイヤーズ司令?」
「完全に固まってやがるな。ま、こいつのこんな姿が見れただけでも、呼び出
 された甲斐があるってもんかな?」
 カズヤがタクトの目の前で手を振りながら呼びかけても反応がない様子を見
て、アニスが少しは溜飲が下がったと言わんばかりにケケケと人の悪い笑みを
浮かべた。
 そして、この会話がミルフィーユにもう1人の大切な人の存在を思い出させ
た。アプリコットを解放すると、慌てて頭を下げた。
「ああっ、タ、タクトさん、ごめんなさい!私、つい」
「あー、いや、良かった。忘れられたかと思った」
 何とか解凍したタクトは、頬を人さし指でかきながら応じた。そんな夫の反
応に、彼女はさらに慌てながらフォローに走る。
「そ、そんなこと、ありません!私、いつもタクトさんの事を心配して、ここ
 に来る人に訊いて回っているんですから!!」
「・・・訊いて?」
「はい!この間はミントさんが来て色々とお話を伺いましたし・・・」
「ぐはっ」
 途端に、言葉が胸に突き刺さったタクトは仰け反った。何しろ、元エンジェ
ル隊のミントには何度かデートの誘いをかけているのだ(いずれも断られてい
るが)。その事実が妻に漏れた、と思えば無理もない。
「あ、あと最近ですとちとせさんがEDEN帰還時に、私に色々と聞かせてく
 れて・・・」
「ごふっ」
 今度は崩れ落ちそうになるタクト。これまた元エンジェル隊のちとせにも、
食事の誘いをかけていたのだ(やっぱりこれも断られている)。
 そんなタクトの様子に気づかず、ミルフィーユは指を折りながらさらに次の
例を挙げようとする。
「最新の情報は、エルシオールを回航するレスターさんから・・・」
「ごめんなさい。無条件で謝りますから、これ以上言わないでください、お願
 いします」
 浮気(未遂)の証拠を完璧に若妻に掴まれ、平謝りに謝るへっぽこ亭主の図、
ここに完成。
 もっとも、当の若妻であるミルフィーユは全く分かっていなかったが。
「あ、あの、どうしたんですか、タクトさん?いきなり謝ったりして」
 天然ボケ、恐るべし。

 終わり

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 言葉遣いがおかしい、という種類の苦情は受け付けません。
 何せ、手持ち資料はU&TデュエットCDとか、アンソロジーコミックとか
「廃太子の帰還」しかないもので;

 それでは、こんなところで。