少女義経現代伝 −迎撃− 後編のボツシーンです。
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「ここに・・・何か結界が張ってあります」
「結界、ですか?」
「うん。『えすしーくうかん』とかいう結界を張ってるみたい」
観月の言葉に頷いた九羅香が、2人に補足説明を入れる。
「で、弁慶や紅葉たちが中で戦っているんだけど・・・破れそう?」
「はい、この程度の結界でしたら簡単です」
SC空間内部の理子とJ.B.が聞いたら卒倒しかねない事を、観月はあっ
さり断言してのける。
そして、彼女は実行した。
SC空間内部での戦闘は膠着状態におちいってしまった。ディゾナントを倒
されたJ.B.は孤立し、迂闊に攻撃することもできない状態である。一方の
弁慶達はというと、数の面では優勢でもJ.B.に対して有効な攻撃が出来る
のは(戦闘能力ではJ.B.に劣る)理子1人とあって、攻め込めずにいた。
この膠着状態を打ち破ったのは、外部からの乱入者達であった。
このような状況に変化をもたらす原因としては、乱入というのは珍しいもの
ではない。ただ、乱入した先と、その方法は非常に型破り(特に理子やJ.B.
のようにイデア理論を知る者にとって)ではあったが。
最初に乱入者の気配に気付いたのは、与一であった。
「ん?」
その気配に空を振り仰ぐと、奇妙な光景が広がっていた。空に穴があいてい
たのだ。その穴は極彩色のマーブル模様で彩られている。しかも、少しずつ大
きくなっている。
「何だ、あれは?」
異様な光景に、彼女の口からそんな言葉がついて出た。だが、直後に放たれ
た合成音声が、彼女の言葉をかき消した。
『SC空間安定度低下。リンクを切断してSC空間から脱出します』
「何ですって!?」
「何?」
理子とJ.B.、イデア理論を熟知する2人は同時に驚きの声を上げた。こ
の2人にとっては、オーギュメントが機能しているにも関わらず「外部からの
いかなる干渉も受け付けない」SC空間が外部から解除されるなど有り得ない
事だからだ。もっとも、それはこの2人にとっての話である。弁慶達にとって
はそれほど驚くようなものではない。
「あら〜、九羅香さんが外からこの結界を破ったんでしょうか〜?」
「でも、九羅香のやつ、術は苦手じゃなかったっけ?」
弁慶は首を傾げる。そう疑問に思うのも無理はない。何しろ本人が公言して
いる事なのだ。
「まさか、どこぞの小説のように、刀でSC空間をぶった切ったってわけでも
ないだろうし・・・」
弁慶が首をかしげている間に、乱入者達はその穴から突入してきた。その内
の1人が、叫んだ。
「弁慶様!相手から離れてください!」
それは九羅香達同様に懐かしい声であった。その声に従って弁慶はバックス
テップしてJ.B.から距離を取る。紅葉、静、与一、玲奈の4人も彼になら
ってJ.B.から離れ理子の方に寄る。直後、乱入者達の猛攻が加えられた。
「炎よ、猛虎となりて敵を食らえ!猛虎爆炎!」
声に呼応するように炎の柱がJ.B.に向かって走り、包み込んだ。
「くっ・・・」
咄嗟にJ.B.は腕で自らの顔を炎からかばう。そこへ、もう1人の乱入者
が迫った。金髪碧眼のその乱入者は、小柄な身体には不釣合いな戦斧を手に
J.B.に斬りかかったのだ。
「はぁぁぁぁっ!」
気合いと共に振り下ろされた戦斧を、J.B.はよけきれなかった。左腕が
直撃を受け斬り飛ばされる。だが、SC空間が完全に崩壊したいない事が彼を
救った。クイーンデッドがただちに反応し、左腕を再生したのだ。一方、斬り
飛ばされた左腕は、存在しなかったかのように消え失せる。
「なん・・・!?」
「実が虚に、虚を実に変える結界、なんですね」
さすがに驚きを禁じえなかったのか、斬りつけた彼は絶句する。その後ろに
降り立ったもう1人は、自らの理解を口にした。その姿を見た弁慶は、思わず
その名を呼んでいた。
「観月ちゃん!廉也も!」
「お久しぶりです、弁慶様」
「お元気そうで何よりです」
かつて、「神機」を使える唯一の人間として平家側の切り札であった観月と
彼女の従者である廉也は、笑顔でそう挨拶した。だが、驚く弁慶は挨拶どころ
ではなかった。
「2人共、何でここに!?」
「神機の封印のお手伝いをお願いしたの」
遅れて降りてきた九羅香が、簡潔に答える。その説明に、弁慶の顔が固まった。
「・・・なんだって?」
「え?だから、お手伝いをお願いしたって・・・」
「初耳だぞ、オレは」
「へ?」
「だから、オレはそんな事、聞いてないんだってば」
「あ、あれ?そうだっけ?わたし、言ったと思っていたんだけど・・・」
自信なさげに九羅香が首を傾げるが、
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と、このように当初は廉也が登場する予定だったんですよねー。
「弐」の発表で楓に変わったわけですが;
それでは、こんなところで。