松です。2003/03/04の続きです。
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「これね・・・」
ヴォルケンクラッツァーの艦内深くに位置する機関部。彼女は、そこに設置
された動力炉(原子炉とは違う)を直接操作出来る、操作盤の前まで来た。
「後は、これを・・・」
操作して止めるだけ、そう呟きかけた彼女は、横合いから強烈な憎悪と殺気
を感じた。反射的に近くの物陰に飛び込むのと、銃声が響き渡るのが、ほぼ同
時であった。
先ほどまで彼女の身体が存在した空間を銃弾が貫き、そのまま壁に当たって
跳ねる音が響いた。
「やはりここに来たかぁっ!!」
「クルーガー提督・・・」
彼女も、腰に下げた拳銃を抜きつつ呟いた。そんな大声ではなかったのだが、
意外にも機関部一帯に呟きが響き渡った。
「提督ではない!総統だ!!私は『テュランヌス』の総統なのだ!!」
「総統なんて、あなたのガラじゃありませんよ。艦隊を率いて、海を駆け回っ
ている方がよほど颯爽としていたのに」
本心からの言葉だったが、既に彼女への憎悪に凝り固まっているクルーガー
には通じない。
「黙れ!貴様はいつもそうだ。私のやることなすこと全てにケチをつけ・・・
だが・・・それもこれで終わりだ!貴様を殺し、貴様の艦も道連れにしてく
れる!!」
絶叫と共に彼女のいる方向へ拳銃を撃ち放つ。無論、物陰に隠れた彼女に当
たるわけはない。ただ、怒りを発砲という形に変えてぶつけているだけだ。も
っとも、そうやって怒りを少しは発散させたおかげで、同じ程度に冷静さを取
り戻したらしい。無駄な発砲を止め、彼女のいる方へ近付こうとする。
すると、今度は彼女が物陰から身をのり出してクルーガー目がけて発砲する。
銃声に、クルーガーは近くの物陰に身を隠す。そして、応射。再び彼女は身
を隠す。乱射と言った方が正しいクルーガーの射撃回数を、彼女は冷静にカウ
ントする。すると・・・
(弾切れ!)
無駄に弾をばら撒いたためクルーガーが撃ちつくした事を、彼女は何度目か
の銃声で察知した。同時に、今まで隠れていた物陰から飛び出し発砲する。そ
して、今度はあらかじめ目をつけておいた別の物陰へ向かって走り出す。その
間にも、威嚇射撃を加えてクルーガーの動きを止める。これが功を奏し、彼女
は一度も発砲されずに、目的の物陰に飛び込めた。
(さーて、どうしようかな)
弾倉を交換しながら、彼女は内心で呟いた。いつまでもクルーガーの相手を
しているわけにはいかない。ヴォルケンクラッツァーが自爆する前に、この暴
走を止めねばならないからだ。そのためには、クルーガーを「何とか」しなけ
ればならない。この場合、「何とか」する、ということは、殺害を意味するの
であるが・・・
そういった諸々のことに考えを巡らし、1つため息をつくと彼女は、方針を
決定し、行動を起こした。
「クルーガー提督」
彼女の声に、クルーガーはピクンと身体を震わせた。
「申し訳ありませんが、私は先に行かせていただきます。早くこの暴走を止め
ないといけませんので・・・」
「止められるものか!あの操作盤を使わずに、止められるものか!!」
「止められますよ。私が誰か、何をやっていた人間か、もう忘れたんですか?」
いくばくかの揶揄が混じった言葉に、クルーガーは元より残り少なくなって
いた余裕を消滅させてしまった、だから、彼は彼女の言葉に疑いを抱くことさ
え出来なかった。
「それでは、失礼しますよ」
「貴様ぁーーーっっ!!」
クルーガーは絶叫と共に、物陰から飛び出した。彼女が隠れているはずの物
陰に猛り狂う牡牛の勢いで突進した。だが、当然のように、そこに彼女はいな
い。彼は血走った目で辺りをにらみつけた。
「どこだーーーっ!どこにいる!出て来い!!」
怒鳴りながら、彼女の姿を捜し求めてさらに進む。そんなクルーガーの背後
に彼女が姿を見せた。だが、彼は気付かない。彼女が拳銃を背中に向けても気
付かない。気付いたのは、彼女が声をかけた時だった。
「クルーガー提督」
「!?」
彼が驚き振り返った直後、連続した銃声が響き渡った。
「ぐ・・・」
総統用の豪華な服を血に染めて、クルーガーはうめき声を上げた。3発の銃
弾をその身に受けた彼は、その場に崩れ落ちた。ほとんど即死だった。
そんな彼に、彼女は目を閉じて呟いた。
「さようなら、クルーガー提督」
かつては反乱軍の上官でもあった男の死に対するいささか複雑な感情を、彼
女はため息1つで押さえつけると、操作盤に向かって歩き始めた。動力炉は、
さらに不安定になり、暴走を止めるには一刻の猶予もなさそうであった。
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と、こんなところです。