松です。WW2IF物な話の落書きです。
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八空艦から発進した松原誠二、北条静の組が乗るレーダー装備の一式艦戦は
順調な飛行を続けていた。
「何にもないなぁ・・・」
あまりの順調さに退屈してきた松原がポツリと呟くと、後席の静が頷いた。
「ない」
「レーダーにも反応なし?」
「ない」
「逆探も?」
「ない」
「うーん・・・」
短い静の回答に、松原は首をかしげた。別に彼女の回答に不満があるわけで
はない。反応の有無はある意味、運に頼る部分があるし、彼女の素っ気無いく
らいに短い回答はいつもの事である。ただ、このままだと手ぶらで帰る事にな
りそうだ、と思っただけだ。思い切るようにため息をつくと、彼は結論を口に
した。
「こりゃ、今回は外れだな。あと30分飛んだら、引き返そう」
「それでい・・・逆探に何かかかった」
途端に松原の顔が引き締まった。
「方位は?」
「2時の方向。数、増えてる」
「レーダーは?」
「まだ、かからない」
「進路を変える。レーダーを固定してくれ」
「分かった」
静はうなずくと、指示通り左右に動くレーダーのアンテナの動きを止め、機
首方向に固定した。このアンテナ、精密機械だけあって、下手に動かしながら
激しい機動を行うとすぐに壊れてしまう。その防止のためだ。
「レーダー固定した。動いていい」
「了解」
そう応じると、松原は緩やかな旋回に入った。その間にも、静は逆探のスコ
ープをにらみながら電波発振源の数を特定していく。
「9・・・11、12・・・14」
「こりゃ、大物だなぁ」
旋回を終えた彼は、静のカウントを聞いてそう判断した。
「レーダー動かしていいぞ。早く見つけないと・・・」
「もう見つかった」
「何?」
「12時方向、レーダーに反応。3つ。かなり小さい。距離は120キロ」
静の淡々とした答えに、松原は確認するように問い返した。
「駆逐艦か?」
「それより小さい」
「何だ?魚雷艇が引っかかる距離でもないぞ」
「私たち、探しているの空母・・・」
「あ・・・」
松原は、いつものごとく大事な事を失念していたことに気がついた。
見つけたのが空母を含めた機動艦隊であるならば、当然、警戒のために戦闘
機くらい飛ばしているに決まっている。そして、ノコノコと近寄ってきた彼ら
の一式艦戦を迎撃しようとするのも、また当然なのだ。
「やっぱ、気付かれてるよなぁ」
「こっちに近づいているから、あっちも気付いてる」
「どのくらいで見えるようになる?」
「あと5分も・・・あ・・・」
「どうした?」
「レーダーから消えた」
「あたー、レーダーの捜索範囲よる上に行ったか」
松原は顔の半分を手で覆うと、空を仰ぎ見た。この機のレーダーは対艦捜索
用なので、自機の下側への捜索しか出来ないのだ。
迎撃に来るであろう敵機も見失った彼は、それでも、ため息1つ吐くだけで
立ち直ると、対抗するために行動を起こした。
「北条、悪いけどレーダーを固定してくれ」
「もう固定した。逃げる?」
「それは、連中と一戦交えてから、だ」
「3対1でも?」
「任せろ」
松原は確固たる口調で断言して見せた。その目は、米粒程度の大きさの連邦
軍戦闘機タビーキャット3機をしっかりと捉えていた。どうやら、こちらがま
だ気付いていないと思っているらしく、悠々と後方上空を押えようとしている。
(それなら、そうさせてやるさ)
松原は内心で呟いた。予想範囲内で動くのであれば、やりようはある。
タビーキャット3機は、松原の予想通り彼の後方上空につけてきた。
「松原・・・」
「まだまだ」
さすがに不安を感じてきた静の声に、松原は落ち着いた態度を見せた。
戦闘機がこのような奇襲(今回の場合、実際は奇襲ではないが)を行う時、
必ず猫科の肉食獣のように、慎重に必殺の間合いまで接近し、そこから一気に
加速して一撃で仕留めようとする(一般に「ドッグファイト」の名で知られる
空中格闘戦は、この一撃が失敗するか、乱戦でそれどころではないい場合に発
生するものだ)。
だから、松原は接近してくる3機がその急加速を行うまで待つつもりであっ
た。敵が急加速を行う一瞬が、相手にとって隙になるからだ。
(さあ、仕掛けて来い)
内心で呟いたその時、まるで呼応するように彼の首筋が粟立った。同時に、
タビーキャット3機が左にロールしつつ急降下に入った。
(来る!!)
敵の攻撃を振り返らずに察知した松原は、すぐに行動を起こした。主翼下の
増槽を切り離す。スロットルを一気に開ける。操縦桿を引きつけ機首を上げる。
この3つの動作を同時に行ったのだ。結果・・・
「うおっ!?」
タビーキャットのパイロット達は口々に驚きの叫びを上げることになった。
当然の事で、完全に無防備(に見えた)な敵を背後から奇襲するという、必勝
の態勢から攻撃をかわされたのだから。
だが、この驚きは致命的なミスであった。彼らが驚いている隙に、松原は反
撃に入っていたのだから。
彼は、爆撃機用エンジンの大出力に物を言わせて、そのまま宙返りに入った。
そして、背面飛行から降下に入ろうとしたところで、攻撃に失敗したタビーキ
ャット3機が目の前に飛び出してきた。短時間のうちに急降下から回復出来な
かったためだ。無論、松原にとっては好機である。ためらうことなく、引き金
を引いた。
20ミリ機銃弾の雨が、1機のタビーキャットを捉えた。20ミリ機銃弾は
コックピットに集中した。
「ぎゃあっ!!」
キャノピーやコックピットと等しく粉砕されるパイロットは断末魔の絶叫を
上げた。直後、タビーキャットは粉砕されたパイロットの代わりであるかのよ
うにどんもりうって落下していった。
だが、落下していくタビーキャットに注意を払う者は1人もいなかった。松
原と静の2人は残るタビーキャットの撃墜に意識を集中していたし、タビーキ
ャットのパイロット達は、機体を引き起こすのに必至であったからだ。
そんな彼らに、松原は容赦なく追撃を加えた。最初に狙ったのは、近くにい
た、引き起こしが出来ていない1機だった。彼は軽々とその背後を取ると、機
銃の一掃射でエンジンから火を吹かせた。タビーキャットのパイロットは慌て
て機を捨て、パラシュートの白い花を咲かせる羽目になった。最後の1機は、
引き起こしこそ成功したものの、あっという間に松原機に食いつかれ、慌てて
機体を左右に振って間合いを取ろうとした。しかし、結果はせっかく降下で得
た速度を無駄遣いて、オリジナルより動きが鈍いはずの電探装備型の一式艦戦
にじりじりと距離を詰められるだけに終わる。そして、至近距離からの射撃で、
左主翼をへし折られ、きりもみ状態で落下していった。
「ざっとこんなもんか・・・」
驚くべき短時間で3機を撃墜してのけた松原は、特に誇るでもなく呟いた。
そんな彼にに、静はポツリと次の行動を告げた。
「後は電波源を探すだけ・・・」
「そうだな、早く見つけて、報告しよう。電波源の方位を特定し直してくれ」
「分かった」
松原誠二 男性 階級:少尉
第八空母艦隊の偵察中隊パイロット。単純な空戦の技量だけなら真田、柴田両
中隊長よりも上なのだが、「肝心なところでミスをする」という悪癖から単独
では飛行させてもらえないという問題児、兼、天才児(ゆえに八空艦に回され
た、と言われる)。
平時にはその腕を買われてほとんど全ての新型機のテスト飛行に参加している。
開戦後は、単独行動は危険、と見られて、複数名が乗り込む偵察任務の雷撃機
パイロットを務める。
一式艦戦電探装備型に機種転換(+北条静とのペア成立)後は、直衛機を撃墜
してまで詳細を報告するようになったことから、スッポンというあだ名をつけ
られた。
なお、総撃墜数は、下手な戦闘機パイロットを上回っている。
ザンバラ髪の、和やかな、あるいはのんびりした印象の男である。
北条静 女性 階級:曹長
第八空母艦隊の偵察中隊電探操作員。パイロットの資格も持っているが、電探
操作の方が上手かったため、電探操作員になった。
よく気がつく娘なのだが、物言いがストレートに過ぎる上にポツリと呟くよう
に言うため、相手に与える衝撃が大きすぎるきらいがある。
そういった辺りをまるで気にしない、よく言えばおおらかな松原とは良いペア
を構成している。
きれいに切りそろえた長い黒髪と、端正ながら無表情な印象を与える女性。