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「地域社会をつむぐ」 京都新聞やましろ随想 2006年8月18日  2006.8.19

 退職して在宅で子育てをしている女性たちと話をする機会があった。一生懸命に子育てをしていると、ふと、社会から取り残されていると感じてしまうという。もう少し子どもが大きくなるまではそばにいたいと思いながら、光が見えなくて、このままでいいのかと焦ってしまうという。

 彼女たちの焦りの一因を、平成18年版国民生活白書の中にみつけた。
「女性の再就職を妨げる壁その1 子どもが小さいと育児負担が大きく、仕事との両立が困難であることから、求職活動を始めることすらあきらめてしまう人が多い。その2 育児を理由に離職した女性は、離職期間が長くなるほど正社員として再就職しにくくなる。これは、職業能力が離職期間中に低下してしまうためと考えられる。」とある。

このことを感じていて、このままでは社会に戻れないのではないかと焦るのである。子育てしながら暮らす日々の生活は、社会から隔離されたような状態になる。彼女たちが暮らす社会は、明治期のジャーナリストである福地桜痴による society の訳語−生活空間を共有したり、相互に結びついたり、影響を与えあったりしている人々のまとまり。また、その人々の相互の関係−とはまるで別物のようだ。

 結婚と同時に退職して見知らぬ土地に引っ越して、友達もいないまま子どもを産む。人々とのつながりの中での子育てではなく、社会とはいいがたい「家とその周辺」だけの限られた空間と限られた人とのつながりのみで、暮らしている。再就職どころか自分が嘗て学び働いていた社会につながっていく一筋の光すら見えない。

 出産や介護などで離職した女性たちが子育てしながら社会へ戻ろうとする再チャレンジへの意欲は高い。しかし、いったん切れたものをつなぐのは難しい。細くてもよいからつなぎ続けたままでいけないものか。たとえ一本の糸でもつながっていればとの思いから、その細い糸をつむぐ活動をしている。

*福地桜痴 (1841-1906) 新聞記者・劇作家・小説家。長崎県生まれ。本名、源一郎。旧幕臣。「東京日日新聞」社長兼主筆。歌舞伎の改良運動に尽力。著「幕府衰亡論」「懐往事談」、小説「もしや草紙」、戯曲「春日局」など。